就活に失敗したオタク

就活にしっぱいして無職のオタクの戯言です。

就活日記 その5 父の老いと僕からの提案

 

f:id:AtomRyu:20171107174728j:plain

 

母や父はきっと現在僕が内々定をいただいている企業に就職を決めるものだと考えていたのだろう。少しの不安はあれどわが子が社会人の一員として来年から自立した生活を送ることを望んでいた。 

 僕が両親に告げた内容はこうだった。

  1. 企業には辞退の連絡をする。つまり今年は就職しない。
  2. 来年から休学をする。そしてアムステルダムで自活する。

父も母も、目を見開いてどこか遠い世界に存在する話を必死にわが子のことだと理解することに努めた。それにはある程度の時間が必要だった。

まだ理解の手段を見つけることができない父に対して、来年からの生活についての詳細を話し始めた。それはまったく無意味な説明だっただろう。僕がうえから振りかける砂は音もなく山の表面を滑り落ち、何もそこにとどまることはなかった。

 

 父は寡黙な人間だった。僕が何か突拍子のないことを告げたとしても追い立てるように口を出すことはなく自分で考えることを促した。そんな父はそのときうなだれるように椅子に深くもたれかかり、壁にかかる額縁をじっと眺めていた。額縁の中には僕の幼いころに撮られた写真が飾れていて屈託のない笑顔でこちらを見返していた。しばらくの沈黙の後、息を吹き返したように目に意志が宿り、僕のほうを正面から見つめた。父の顔は自分が想像していたよりもずっと年老いていた。肌は浅黒く変色していて、お世辞にも健康的だとは言うことができない。それに加えて口元とあごの下の肌のたるみが目立った。「子供はある程度の時期まで親に擁護されながら生長するが、いずれは独り立ちをし老いた両親を食わせていかなくてはならない」これが父の主張の核心だった。父の主張は緩やかに右に曲がったり左に曲がったりしたのだが、早く自分に働いてほしいし、いずれ自分が引退しなくてはならないことを不安に感じていたのだ。僕は父の肌やその目をじっくりと眺めながら、驚きと憐れみに襲われ大きく息を吐きだして椅子の背にもたれかかった。そして父の頭上の棚に置かれた猫の置物を眺めた。