就活に失敗したオタク

就活にしっぱいして無職のオタクの戯言です。

就活日記 その2

 

f:id:AtomRyu:20170927172249j:plain


 僕は就活戦争の最前線で果敢に立ち向かう一人の熱心な学生として扱われた。就職活動は多くの人間が体験することだし、あるいはそうでない人もマスメディアからの情報や人付き合いのなかでだいたいこのようなものだと認識しているものである。僕と居酒屋やバイト先で話す人たちの仲には「あらぁ、就活大変ねぇ。辛くなったいつでも来なさい」と僕が傷心しているだろうと案じて気を使ってくれる方がいれば「なんだ、就活か。まああれはほとんど運みたいなものさ。いいかい、良さそうな流れに身を任すのさ」と肩の力を抜いてあまり深く考えないほうが良いというアドバイスをくれる方もいた。どの人も就職活動なんて馬鹿がやることだなんて暴言を吐くことはなかった。もしかしたら少なからずそう心で思う人がいたかもしれないが、彼らは酸いも甘いも経験を積んでいるし、ここはおとなしく助言してやることがお互いメリットがあるだろうと理解できるのだろう。とかく、日本国内では就職とは悲劇名詞として扱うべしという暗黙の了解、もしくはマスメディアの印象操作があり、就活生はどことなく不吉だがそれを乗り越えるものとして勇敢な印象が与えられがちなようだった。

 

f:id:AtomRyu:20170927172515j:plain

 

 実際のところ僕は泥沼のような怠惰な生活を送り続けていた。第一志望とする企業は経団連のきめた採用解禁を正しくまもっていたので比較的採用時期が他社よりも遅く、僕は面接の山を一つ乗り越えるとぱったりと面接に伺う会社もなくなり突如として空白の期間が訪れた。僕はその期間お昼すぎにもけだるげに目を覚まし、一杯の水を飲んでから再び布団の中にもぞもぞとくるまって時間を食いつぶすように動画投稿サイトの動画を見あさっていた。そして夜になると、なんて無為に時間を使ってしまったのだろう。今からでも取り戻さないといけない。と躍起になって外に出かけて居酒屋やバーで酒を飲みつつ、見ず知らずの他人と会話をしてまるで馬鹿みたいに笑っては、ふむ、なかなか悪くない一日だったとほんの少しの満足を得て再びベッドの中にばたんと倒れこんでそのまま眠りについた。

 

f:id:AtomRyu:20170927172625j:plain

 

 このような薄暗くて地に足のついていない生活を止めるものは誰一人といなかった。理由はおそらく就活生というのが一種の悲劇的な人間だと思われる傾向にあったからだろう。ずいぶんとこの人は粗暴な態度をとる、しかしそれは就活で彼が傷ついたからに違いない。この人の顔色や人相は日に日に悪くなっていくようだ。しかしそれは就活で彼の食生活が乱れたからに違いない。就活という悲劇名詞はどんな言葉にも付き添うことができたのだ。まるでエイの下に張り付いて泳ぐ小魚みたいになにも抵抗なく、まるでそこにあるのが当然のような顔をして存在していた。確かに就活生は自分を自分ならざるものとして評価される点において不幸な存在なのかもしれない。しかし僕にとってその効果は仮の自由を与えられたようなものでどこか心地が良かった。こうしてトレンディな教授を含め、一般定な身の回りの人間ですら、僕をどこかにつなぎとめようとはしなかった。

 

たこんど