就活に失敗したオタク

就活にしっぱいして無職のオタクの戯言です。

大人になるにつれて「好きです」と言えなくなる。 前編

 ( この文章は未練タラタラな僕が過去を冷静に判断するために書いて、公開をしています。残された可能性を洗い出す作業です。思うことがあれば伝えていただけるとありがたいです。)

 

 

大人になるにつれて、「付き合ってください」のまえに「好きです」といえなくなってきた。これは僕だけの悩みなんだろうか。がんばって正確なことばをさがすと、「好きです」ということばを使うことに抵抗を感じるようになった。いったいなにがあったんだろう。

 人によって恋愛観をかたち作ったものは違うだろう。ある人は「美女と野獣」かもしれないし、ある人は「リバースエッジ」だったかもしれない。

僕の恋愛観を形作った作品は、もう、間違いなく「いちご100%」だ。もう、なんてったって「いちご100%」なのである。作品を読んだことがないひとのために簡単な説明をします。

「いちごぱんつを履いた4人の女の子達に童貞がめっちゃ弄ばれるエッチなお話」です。なんだそれ。

いちご100%」が連載していたのは2002年から2005年で、当時僕は小学5年生のころだった。まだ周りはジャンプよりもコロコロコミックを購読している友人が多く、狭いコミュニティのなかでは、知る人ぞ知るちょっとエッチな作品という位置づけがされていた。うっかり女の子のパンツをみてしまったりすると「うわー、吉田へんたいー」と弾圧されるような、性に対して不寛容な環境だったので、僕はこっそりと書店でコミックスを購入し、自室に鍵をかけてみちみちと読み込んでいた。

今思い返すと、主人公の真中準平はどのヒロインに告白をするときも「好きです」という言葉を忘れなかった。たったの一度もだ。コミックス一巻でニシノツカサに告白するときにいたっては、下校時間の学校で、懸垂をしながら「好きだーーーーー!!!!!付き合ってくれーーーーーー!!!!!!」と叫び散らすのだ。まじで意味がわからん。

告白の手段はどうあれ、僕の好きな恋愛漫画(「I"s」や「電影少女」)はまず、どれくらい好きかということをヒロインに伝えて、その後に「付き合ってくれ」と了承を得るのである。「こうやって告白すればええんか、承知した!」と膝をたたきまくっていたはずなんだけれど、いつ忘れてしまったんだろう。おかしい。

 

さて、話を進めよう

今年の6月、付き合いたい女の子へ告白をするために沖縄へむかった。1週間滞在したうちの二日目に彼女にあって告白をし、そして振られた。残りの滞在期間は国際通りから歩いて5分くらいの距離にある安里という飲屋街で飲んだくれていた。

相手は一年前に就活を通して出会った女の子で、名古屋にいるときは月に一回くらいのペースで遊んでいた。ある時は大学の近くにあるかき氷屋さんでお茶をしたり、ある時は東山動物園でモルモットと触れ合って遊んだりした。そして彼女は入社とともに沖縄に移動がきまり、南の島国で数年間働くことになった。彼女は日光にあたると人より疲労しやすく、湿度が高いとくせ毛が目立つ女の子だったので、あいつ干からびて死んでないかなあと心配をしたが、会ってみたら毎日ヤギの刺身をもりもり食べて元気そうにしていて安心した。なんなら生き血すらおいしそうにすすっていて沖縄で彼女になにがあったんだろうかと心配した。

僕と彼女には「彼女や彼氏が必要ない」という共通の価値観があった。お互いに、「好きとはなんぞや」という問いにずいぶんなやまされていた。だから、「まあ、二人で遊ぶときには気兼ねなく好きなことをやりましょう」ということになっていて、相手が右と言えば右、左といえば左、疲れたといえばそこに長いあいだ立ち止まった。していることはデートだが、非常に穏やかなものだったので、はたからみると熟年夫婦のような雰囲気すらあったと思う。

彼女が名古屋を発つ数日前に、本屋に併設されたカフェでお茶をした。話はいつもどおり「このままの生活を続けると、私たちは未婚のまましんでいくのだろう」という内容に収束していった。普段はどうしたもんかねえなんて溜息をついてコーヒーかレモネードがなくなるまで愚痴を言い合うのだけれど、彼女と長い間会えないかもしれない、と考えたら話を進めようという気持ちになった。そして「40歳になってもお互いが独身だったら潔く結婚しよう」と彼女に告げたのである。彼女はくすっと笑った後に、昨日みた「シェープオブウォーター」がいかに面白かったかというはなしをはじめた。けれど、別れ際に「次に会うのは20年後ね」と僕にいった。

彼女が名古屋からいなくなり、数か月すごして、彼女が手の届くところにいないということがどれほどつらいかということを身をもって理解した。そして沖縄に向かうことを決めたのである。

僕は安里のジャズバーで彼女に告白をした。チャーミングなおばちゃんが一人で切り盛りををするこじんまりとしたお店で、観葉植物やらレコードやらおばちゃんの私物の置物で雑多な印象を僕に与えた。店内はアートブレイキーのソロアルバムが流れていた。

ここからは、僕と彼女のやり取りの要約を書いていく。

「僕たちはお互い気兼ねなく遊んだり、話したりすることができる関係だ。だからこの関係を付き合っていると呼んでもいいじゃないかな」

「私は、付き合いたくない。あなたと、ということではなくて、誰とも付き合おうとは思わない。私は仕事と恋愛を同時にこなすことはできない。あなたとの関係は、他にはないくらい親密なのは認める。けれど、考えてもみて。私たちは付き合うことなく、この関係をつくりあげることができた。だから私は今後も付き合うことなく、関係を維持していきたい」

「君は誤解をしていると思う。いまここにある関係はなんの努力もなく成り立っているわけじゃない。君と僕はエネルギーを費やすことによってこの状態を維持している。いわば仮止めの状態にある。もし、どちらかが努力を怠れば今の状態はすぐにくずれて消えてしまうだろう。それぐらい、とても不安定なものだ。だから僕は付き合うことによって、安定した場所に収めたいと思っている。君が僕の誘いを断るのなら、今の関係はなくなってしまうと思う。それでもいいかい」

「あなたとの関係が失われてしまうのはとても心苦しい。けれど、私はあなたと付き合うことはできない。というよりも、あなたと付き合うことは難しい。第一、私とあなたは遠くはなれた場所で生活をすることになる。そして私は仕事を優先しないといけない。改めて、私はあなたと40になってから関係を深めたいと思っている」

「現実的な問題があることはわかった。それならば、付き合うための条件を提示してほしい。そして、条件を満たせば付き合うという約束をしてほしい」

「わかった。条件を考えましょう」

我々の会話をざっと要約するとこのようになる。時刻は23時をまわっていた。あたりを見渡したが、客はおろか店主のおばちゃんの姿もなかった。おばちゃんは気を聞かせて外に一服しにいったのかもしれないし、閉店時間をすぎても居座る客に辟易としたのかもしれない。どちらにせよ、おばちゃんにはけっこう気を遣わせてしまったのは確かだった。お店に戻ってきたおばちゃんは二本のペットボトルを抱えていて、会計を済ませると「またおいで」といって僕たちに一本ずつコカ・コーラをくれた。

以下、コーラを飲みつつ国際通りまで歩いているときの会話

「条件について、時間がかかってもいいから考えてほしい。君がいやだと思うことはすべて詰め込んでもらってかまわない」

「考えているけれど、むずかしいよ。いったいどんなものものがいいんでしょうね」

「たとえば、たばこを吸う男と付き合える?その程度でもいい」

「ああ、煙草を吸う男とは付き合えないわね。そうね、それは条件に加えましょう。ねえ、ひとつ聞いていいかしら。あなたはどうして、私なの。他に素敵な女性がいるでしょう」

「その答えは難しい。理由はあるんでけれど、これだからこうと発言すると、どこかでうそをついてしまいそうだから話したくない。それに、多くを話すと自分が不利になりそうで怖い」

「あら、そうなのね。そういうものかしらね」

僕たちは国際通りにつく。彼女はタクシーをひろい、僕は徒歩で宿に戻ることになる。彼女はタクシーが現れるのを待っている。

「条件を考えているんだけれど、今日答えるのは難しいわね。あの、やっぱり、あなたにはもっとふさわしいひとがいると思うの。私なんかよりもずっといい人が」

僕はそれを聞いてわずかな怒りを覚える。

「その言い方は卑怯だと思う。中途半端な優しさなんて必要ないよ。条件はもういいよ。いっそ、僕が必要ないのなら、必要ないといってくれたほうがよほどいい」

「じゃあ、いらない。今日は楽しかったわ。さようなら」

彼女の前にタクシーが止まり、ドアが開く、するりと車内に入った彼女は少しだけ僕に微笑んで、ドライバーに行き先を伝えている。そして去っていった。僕が最後にみた彼女の姿はスマートフォンを無表情に眺めている姿だった。

 

はい、回想は終わり。きょうはここまで。